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あいち熊木クリニック院長熊木徹夫の精神科無双夢想 ~<あいち熊木クリニック>開設、その後~
院長である精神科医の熊木徹夫と、建築家の筧清澄が、 臨床と建築に対するそれぞれのこだわりを、余すところなく出し尽くす場としてのブログです。


プロフィール

熊木&筧

  • Author:熊木&筧
  • 熊木 徹夫

    2007.07「あいち熊木クリニック」開設


    筧 清澄
    1968 06 10
    1998 筧建築設計開設

    筧建築設計
    名古屋市中村区下米野町3-29
    k-kakehi@za2.so-net.ne.jp
    TEL/FAX 052-451-9976



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『自宅で暴れまわる我が子』
こんにちは、あいち熊木クリニックの熊木です。

「あいち熊木クリニック」のご紹介

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『自宅で暴れまわる我が子』

           ~ 精神科医熊木徹夫の「臨床公開相談」(8)~
           

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Q:6歳の息子のことでお尋ねします。

出産時は正常で、小さい頃に大きな病気は経験していません。
ただ、夜泣きがひどく、手のかかる子でした。

物心ついたころからは、親に対してかなり無理な注文をして、
それがかなわないと突然かんしゃくを起こすことが多くなりました。

現在、公共の場ではそれなりにおとなしいのですが、
自宅に戻ると、ふすまを破り、茶碗を投げるなど
暴れまわるようになってしまいました。

止めようとすればするほど、乱暴がよりエスカレートしてしまいます。
私たちが困るのを、まるでおもしろがっているかのようです。
「バカ、死ね、クソ」が口癖です。

その心労から、ついに同居している私(母)の母親が入院をしてしまいました。
私も次に何がおこるか予想がつかぬため、
突然動悸がおこって止まらなくなってしまいました。

知能指数は正常範囲ということです。

この子はいったい何なのでしょう。

私たちはどうしていけばいいのでしょう。


A:<この子はいったい何なのでしょう。>

まずこのご質問を額面どおり受け取り、
精神医学的観点からお答えすることにします。

大きい括りでいくなら、発達障害の一系である可能性があります。

ADHDってご存知ですか?
注意欠陥多動性障害といって、
学校教育の現場でクローズアップされてきている疾患です。

最近「片付けられない女」といったような本もでていて、
これはADHDをセンセーショナルに扱ったもので、一時話題になりました。

(ただ少し、この疾患のカテゴリーが拡げられすぎてしまった懸念が
あります。いうまでもなく、すべての「片付けられない女」が
ADHDだという訳ではありません。
それなのに、”だらしないのはしかたないのだ”と
都合よく自己弁護する人が出てきたりしています。

この疾患だけでなく、精神科の診断が”免罪符”として
取り扱われすぎるようになってきたのは、ちょっと考えものです)

ADHDの特徴は、一言でいうなら、”注意が拡散し絶えず落ち着きがない、
衝動的な言動がみられることもままある”ということでしょうか。

また一方で、アスペルガー症候群という疾患も
よく指摘されるようになってきました。
これは広く高機能自閉症の一亜型(近いもの、といった意味)として
扱われています。

自閉症とは、コミュニケーション能力に障害があるとされ、
またその障害と関連して言葉が遅れたり欠如したりするものです。
興味の対象が限られ、何かに特別強いこだわりを示すことが多いです。

高機能というのは、その自閉症のなかで、
知的障害の程度の軽いものを指します。

アスペルガー症候群は、自閉症に独特な
人との関係の築きにくさ・強いこだわりなどの特徴を持っていながら、
知的発達・言葉の遅れがみられないものを指します。

あなたのお子さんに、強いて診断をつけるなら、
このADHDとアスペルガー症候群あたりが該当すると思います。

(ADHDとアスペルガー症候群は、
同一の患者さんに併存することがよくあります。
ただし、ADHDやアスペルガー症候群であるなら、
必ず暴力的・衝動的になるという訳ではありません。念のため)

いずれも生まれながらの脳の機能障害があるとされるものですが、
それが具体的にどういうものか、現時点では定かではありません。
ただ、育て方が悪いからADHDやアスペルガー症候群になるのではない、
というのが現在の精神医学の一般的な見かたです。

ところで、ここで次のような疑問がわいてきます。

これまでよく言い慣らされてきた”やんちゃ坊主”や”わんぱく”と
これらの疾患はどう違うのでしょうか。

結論を先にいいますと、
”やんちゃ坊主”や”わんぱく”の程度のひどいものを、
ADHDやアスペルガー症候群などと表現しているのです。

これらには明瞭な境界はなく、
多分に判断者の主観によるところが大きいのです。

”随分いいかげんな話だな”と思われるでしょうが、
そうとしかいいようがないのです。

ただこういったことは決して珍しいことではありません。

よく”これは正常なのか、異常なのか”という問いかけがされますが、
その鑑別の際大事になるのは、それは<程度の違い>のついてなのか、
それとも<質の違い>についてなのかという点です。

<程度の違い>で鑑別している疾患の例として、
糖尿病・高血圧症(どちらも恣意的に定められた
ある検査データの”異常値”を基準としている)などが挙げられます。

すなわち、正常から異常にかけて”なだらかな”階層を形作っているものです。
ADHDやアスペルガー症候群はこちらに分類されます。

それに対し、特異的な症候を複数持つものを”症候群”として
くくりだす場合は、<質の違い>を問うているのです。

慢性関節リウマチやガンは<質の違い>を基準とした疾患です。
精神疾患なら、統合失調症・躁うつ病などがこれにあたります。
(例:幻覚・妄想といった症候をとらえて統合失調症と診断する)

身体についてであれ精神についてであれ疾患を論じる場合、
この<程度の違い>と<質の違い>について考えておくことは大変重要です。

(ただし、これは疾患の種類の違いではなく、
疾患というものを取り出すための方便の違いにすぎません。
ちょっとこの話、難しいですか)

ところで、”やんちゃ坊主”や”わんぱく”は性向を指す言葉で、
”元気な男の子”といったポジティブな見方を表しています。

一方、ADHDやアスペルガー症候群というのは、いわば”病気”であって、
当然のことながら、その言葉にネガティブな響きがあります。

ADHDやアスペルガー症候群などという言葉が
あまり知られていなかった10年以上前にも、
度外れな”やんちゃ坊主”はいたはずですが、
こういった子たちは病気だと考えられていなかったはずです。

社会が変化するにつれ、このような”あり方”は次第に許容されなくなり、
精神科で扱うべき病気であるという位置づけが
なされるようになってきたのです。

この流れは、何か不可解な刑事犯罪がおきるたびに社会論評の任を受けるのが、
小説家から精神科医に変化していった過程と併行しています。

ひとことでいうなら、”社会全体の精神医学化”です。

”社会全体の精神医学化”がすすむと、
社会の構成員各人の”度量”が損なわれていきます。
すなわち、我慢が足りなくなっていくのです。

アメリカでは、このような度外れな”やんちゃ坊主”が
保育園に現れるたびに、保育士がその親に対し、
「早く精神科にかけて、リタリン(後述します)を処方してもらうように」
と促すことが多くなってきているとのことです。

これは精神科医の私からみても、明らかに異常事態です。

子供の目の位置にまで目線を落とし、
子供の立場を理解し代弁しなければならない人々が、
このようになってしまうような社会環境を
日本にも作ってはいけないのではないでしょうか。

そのため、<程度の違い>を根拠とする疾患の判定は、
より厳密なものでなくてはなりません。
私たち専門家も常に自戒が必要であるし、
ユーザーもこの点の理解が必要なのです。

とはいえ、あなたのお子さんぐらいにまで、問題が大きくなっている
ケースでは、児童専門の精神科医に診せた方がいいでしょう。

(児童精神科医は、社会的ニーズが大きくなっているのもかかわらず、
慢性的に不足しています。予約してから初めて受診するまでに、
数か月もかかるというようなことがザラにあります。
緊急を要する家族にとっては、頭の痛い問題です)

医療機関のような第三者の援助を受けるべき要件を、
このケースは十分満たしています。
(相当苦労して、この子を抱えようとした跡がうかがえますから)

精神科での治療は多岐にわたります。
しかしここではとりあえず、
ADHDの一般的な薬物療法についてお伝えします。
(精神療法的関わりについては後述します)

衝動性のコントロールに、中枢神経刺激薬のメチルフェニデート
(商品名リタリン)を使用します。
これはドーパミンという脳内の神経伝達物質の放出を
うながす作用があるとされています。

これは著効を示すをケースが3分の1、
軽度の症状改善がみられるケースが3分の1、
そして残りの3分の1が効果なしであると確かめられています。

ただしこの場合の処方は、健康保険の適用ではないということ、
そして仮に著効する場合でも、長期の使用で依存性が生じ、
副作用として幻覚が生じたり、
禁断症状が起こりうるということは知っておく必要があります。

(そのため、まず使用するか否かの判断、
そして使ったとしても、その使用期間と”やめぎわ”が重要になります。
児童精神科医とよくご相談ください)

さらに衝動が強い場合には、強力精神安定薬のリスペリドン(リスパダール)
やクロルプロマジン(コントミン)などを用いるといい場合があります。

(注:強力精神安定薬はどちらかというと、
先述のドーパミンの放出を抑える作用があるとされます。
だとするとメチルフェニデートが効くことと矛盾する訳ですが、
実際には、これらの薬物は
ドーパミン以外のもっといくつもの神経伝達物質がからんでいることが
予想され、精神薬理学でもいろいろな仮説が立てられていて、
まだ決定的なものは提出されていません。

向精神薬の場合、効果が確かめられたかなり後から、
その薬理学的メカニズムがわかることが少なくありません)

また抗躁薬の炭酸リチウム(リーマス)、そして
抗てんかん薬のカルバマゼピン(テグレトール)や
バルプロ酸ナトリウム(デパケン)を使用するといい場合もあります。

ただ繰り返しますが、
これらの薬物は衝動性のコントロールにしか効果が期待できません。
よって、治療においては副次的な意味しかありません。

さて、<私たちはどうしていけばいいのでしょう。>というご質問ですが、
これはおそらく上記のような答えを求めてのものではないと考えられます。

いや、ご質問というより、途方に暮れた末の嘆き、
ひょっとすると慟哭に近いものであるかもしれません。

誤解を恐れずにいえば、
”うちの子は、まるでエイリアンなのではないか”
との不可解の極まった思いを抱えていらっしゃるのだと思います。

でもここでは、なんとか理解するように努めてみましょう。
それはこれまで何度も何度も挑戦されてきたことに違いないのですが。

到底理解が及ばないという”諦め”、
親が自分に対しこういう気持ちを持っていることは、
こんな幼い子でも必ず気づいていますし、
同時にそのことで深く傷ついているものです。

もちろん生まれつきの”おこりんぼ”かもしれませんが、
この”おこりんぼ”にもそれなりの理由があることが多いのです。

もともと、自分の思いを言葉にするのが苦手で、
いらだつとすぐ手がでてしまうというパターンの繰り返し。
こんなことをしていると、コミュニケーションの能力が一向芽吹かず、
いよいよ未成熟なまま時が過ぎていってしまう。

親に甘えたいがうまく甘えられないもどかしさ、
どうせ僕なんてだめなんだ、というような自棄的な思いを
うちに秘めていても、やはりそれはうまく表現されえない。

えーい、どうにでもなれ、と暴れると、親たちはあわてふためくことになる。
家中にみなぎるこの緊張感がたまらない、とてもスリリング。
それにこうして暴れれば僕の思い通りになる。

この対人操作性・”あまのじゃく”性
(人の嫌がることをあえてする快感!)
をひとたび身につけると、なかなか厄介です。

でも見どころのある点がひとつある。
この子は、”公共の場ではそれなりにおとなしい”とのこと。
一般的なADHDは、うちではいい子で、外でむちゃくちゃする。
この子は逆ですね。
少々社会性はあるようです。

そこでお父さんの登場です!
(ご相談内容にはお父さんがでてきませんが、
ここではいらっしゃると仮定してお話します)

父の一番大切な役目は、実は今も昔も変わりません。

「社会の”掟”を体現する」、これにつきます。

(異論があるかもしれませんが、私は受け付けません。
お料理上手も、家族サービスに熱心なのも、
そのお父さんの”美点”ではありますが、
父であるための必要条件とはなりません)

お父さんが体を張って、息子に”悪いことは悪い”と伝えるのです。
そしてこういうときのお母さんであるあなたの役割、
それはハラハラしながら見守ること!

これでうまくゆかないことは、
家族内で処理しきれないことなのだと思い定めることです。

そうなるとお父さんはまったく損な役回りなのですが、
まあ父なんてそんなものです。
(死んでから息子に感謝をもって偲ばれるでしょう)

まあ半分冗談、半分本気のコメントですが、
あんまり頭が煮詰まるとうまくいきません。
いつもこころに、若干のユーモアを。
健闘祈っています。



熊木徹夫(あいち熊木クリニック<精神科医・漢方医>)
あいち熊木クリニックのサイト:http://www.dr-kumaki.org/
臨床感覚の広場のサイト:http://www.dr-kumaki.com/
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