あいち熊木クリニック院長熊木徹夫の精神科無双夢想 ~<あいち熊木クリニック>開設、その後~
院長である精神科医の熊木徹夫と、建築家の筧清澄が、 臨床と建築に対するそれぞれのこだわりを、余すところなく出し尽くす場としてのブログです。


プロフィール

熊木&筧

  • Author:熊木&筧
  • 熊木 徹夫

    2007.07「あいち熊木クリニック」開設


    筧 清澄
    1968 06 10
    1998 筧建築設計開設

    筧建築設計
    名古屋市中村区下米野町3-29
    k-kakehi@za2.so-net.ne.jp
    TEL/FAX 052-451-9976



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『警察が私を陥れようとする!』
こんにちは、あいち熊木クリニックの熊木です。

「あいち熊木クリニック」のご紹介

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『警察が私を陥れようとする!』

        ~ 精神科医熊木徹夫の「臨床公開相談」(5)~
           

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Q:うちのおばについてご相談します。

現在58歳ですが、20年もまえから、
「警察が私を陥れようとする」という妄想をもっています。

それを親族がいくら否定しようとしても、
あるいは説得しようとしても、
決して納得せず、この妄想は変わることはありません。

理屈立てて丁寧に説明すると、一旦受け入れるのですが、
再びその理屈を覆すような、屁理屈
(私たちにはそうとしか思えません)をこね出し、
結局は「警察が何かをたくらみ、私をつけねらっている」
という話になってしまいます。

もともと頭のいい人で、警察がらみの話でなければ、
いたって普通の会話ができるため、
なかなか回りの人に異常がわかってもらえません。

このところ、妄想はますますひどく、
近所に警察中傷のビラをまく、裁判所に電話をかけるなど、
異常行動がエスカレートしています。
精神科につれていこうにも、本人は自意識が持てないため、
決して応じてくれません。

親族はほとほと困り果てています。
どうしてゆけばいいのでしょうか。


A:なかなか難しい問題です。

このようなタイプの方の場合、今回のご相談もそうであるように、
まず家族親族が大変困ります。

頭もよく、普通の会話が通じる方ですから、
この妄想にからむ問題を除いては、
一応善悪良否もわきまえていることが多く、
自らの”信念”も誰彼となく明かしたりはしません。
その”信念”が否定されるのも、それとなくわかっているのです。

そのため、”信念”の顕在化まで、相当時間がかかっており、
その内容を家族などに口にしたころには、
ほぼ完全にストーリーができあがってしまっています。

ここでは「20年前から」と書かれていますが、
本当はもっとずっと昔にその種は芽をふいてきていたのだ、
と考えるのが妥当です。

このようなタイプは、特有の性格に起因する
一種の精神障害とみなすことが多く、
従来精神科では「パラノイア」と呼びならわしてきました。
最近の診断基準では「妄想性障害」と呼んでいるものに、
ほぼ合致します。

「パラノイア」では、体系妄想が特徴的です。
体系妄想とは、営々とストーリーが築き上げてこられ、
揺るぎなくなった妄想のことです。

これは、統合失調症などの妄想とは質的に異なります
(統合失調症の場合、あちこちに様々な兆候をかぎとり、
それに場当たり的な意味づけをしていく、
感覚優位の妄想が特徴的で、
これはしばしば幻覚と区別しがたいものであったりします)。

むしろ、うつ病に付随することのある心気妄想
(自分はひょっとしてガンで、
もう死ぬんではないかといったような妄想)・
貧困妄想などの微小妄想(要するに、自分はダメだという妄想)
と質が似ているというような指摘がされてきています。
(このあたりの議論は、かねてからの精神医学の「難問」で、
諸説紛々といったところです。
まあしかし、一般の読者の方には
あまり関係のないことでしょう)

「パラノイア」の患者さんは、
発症する前の性格にも、一定の傾向が見られます。

他人に対する警戒心がことのほか強く、頑固、
何にでも徹底した姿勢でのぞむ完璧主義者が多いようです。

もともと、何ものかに対しての強い恐れ
(当初は漠然としたものでしょう)があり、
それが発症要因になっているものと考えられます。

誰かが私を陥れようとするというような被害妄想に
発展するパターンが一般的で、
警察などの”わかりやすい”権力機関が
そのターゲットにされやすいです。

妄想に基づく異常な言動は、
このような”不届きな”権力機関に対しての
いわば”逆襲””正義の鉄槌”といった感じです。

実際のところ、警察もこういった患者さんを
捕まえるわけにゆかず、対応に苦慮しています。

このような患者さんに対しての説得は、
おおかた徒労に終わります。

一見、理を尽くせばわかるようなそぶりを見せるので、
家族は一生懸命筋道だてた説明を繰り返すことが多いですが、
やはりダメです。
ただ、説得が有害であるというほどのこともありません。

「あなたは異常な状態だから、病院へ行かなくてはいけない」
といっても、同様に納得は得られないでしょう。
「変なのは警察の方」なのですから。

仮に、家族の顔を立てて、一緒に精神科に行ってくれた
(この方の場合のように、行ってくれないことのほうが
多いですが)としても、
出された薬をなかなか服もうとはしないものです。
場合によっては、病院や精神科医は<わるもの>で、
毒を盛られているかもしれない、なんて考えていたりします。

先ほどいいましたように、権力機関が私を陥れようとするのだとしたら、
いわば精神科も権力機関、私に害を加えるかもしれない、
そう思ってしまうこともあるのです。

そのためこういった患者さんは、初めて連れてこられた精神科でも、
猜疑心をうちに秘め、初見の精神科医に対し少し身構えています。
いいやつか、わるいやつか、敵か味方か、見破ろうとしているのです。

ところで、このタイプの患者さんは、他人を自分の敵か味方か、
白黒をハッキリつけようとする習性があります。
灰色はありません。
こうして他人の属性を単純化してみることで、
心の安寧を得ているのでしょう。

ただ、ちょっとした一件をきっかけに、
白が黒にひっくり返ってしまうことが、ままあります
(治療の途中で、味方だと思っていた精神科担当医が、
実は敵の回し者だったと”気づく”ことも、しばしばあります)。

では、いやがるのにどうしても精神科に
連れていかなくてはならないとき、どうすればいいか。

病院へは騙して連れてきてはいけません。
これがきっかけになって、より回りに対する猜疑心を強め、
ますます処遇しがたくなるからです。

昔なら家族が説得を重ねた末、どうしても精神科受診・入院の
同意が得られない場合、
例外的ではありますが、精神科医の自宅への往診、
および精神病院スタッフ複数名による強制搬送という手立て
がありました。
しかし今は、より細やかに人権への配慮をしなければならない
時代の趨勢から、このような往診はほとんど行われなくなりました。

これは悪いこととはいえませんが、
困っている家族は以前より増えているものと予想されます。

ただし、家族の悩み相談(これはウソではありません!)として、
患者さんに同伴させることができなくはありません。
しかしそれにしても、患者さんに薬を服んでもらうとき、
あるいは入院してもらうとき
(本人に病気であるという自己認識がなくても、
家族などの同意に基づく医療保護入院は可能です)には、
同等の困難を伴います。

仮に入院がうまくいった場合。

このタイプの患者さんの抱く妄想は、
一般に統合失調症の妄想に較べて、
治りが悪い(薬物が反応しにくい)印象です。

でも発症初期であれば、少量のメジャートランキライザー
(強力精神安定剤)が効く場合があります。
入院などして、長期服用すると、
完全によくなるとまではいかないものの、
それなりに落ち着くこともあります
(これは入院中あきらめて、
”あがく”のをやめるからかもしれません)。

ですが、そのため意外に早く退院になることが多いのです。
良くなれば外来通院になるわけですが、
そこで自主怠薬してしまい、
もとに逆戻りというケースを多く目にします。
それゆえ入退院を繰り返しやすいのです。

何度治療的入院を試みてもうまくいかないとなると、
最終的には社会防衛的入院
(要するに、迷惑防止のための入院)しかありません。

患者さんが年をとる・病気をするなどして、
その”エネルギー”が減衰するのを
待つしかないこともあります
(こんないいかたは何ですが、この方ももう58歳、
まもなく”エネルギー”減衰が訪れるかもしれません)。

いずれにしても、長期にわたる精神科との連携が
必要となる場合が多いので、
お近くの精神科へ(家族だけでも)一度出向かれることを
おすすめします。
やはり、そこがスタート地点です。




熊木徹夫(あいち熊木クリニック<精神科医・漢方医>)
あいち熊木クリニックのサイト:http://www.dr-kumaki.org/
臨床感覚の広場のサイト:http://www.dr-kumaki.com/
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